昨夜の「キリンカップ2007」の試合(対コロンビア戦)について書きます。
オシム監督の明確な意図を感じさせるゲーム前半の大いなる価値について、です。 商店街とはまったく関係ありませんが、。 昨夜の日本チームは前半、中村俊、中村憲、稲本、遠藤、阿部、高原…と、オシム監督の言う「エクストラキッカー」(特別な才能を持った選手)だろう選手が多く出場していた。タレント、およびテクニシャンをそろえた「攻撃的」な布陣だった。 オシム監督はそれを「神風システム」と呼んだらしいが、結論から言うと、監督は、この布陣ではサッカーはできないこと、「エクストラキッカー」をそろえても勝てないことを証明するためだけに、試合の前半、「見栄え」のするタレントをピッチにそろえたと思われる。「神風」というありえないことは、ピッチ上でも起こりえない、ということをわれわれ観客に示す試合となった。 わたしの感想では、この試合はだいぶ「方法的」であり、ワールドカップに向けた「メディア戦略」という意味合いにおいて、大きな布石である。 長丁場になるワールドカップ予選では、うまくいかない試合が、かならずある。そのとき不満分子(メディアや評論家など)が気勢を上げる。「このチーム、機能してないじゃん」、だから「(例えば)小野や森本、平山を使え」というように意見をするひとが、かならずでてくる。 それを見越してオシム監督は、あらかじめそういった不満を言うメディア等の口封じをするために、そしてタレント重視のサッカーを封印すべく、昨日のコロンビア戦を闘った。 1990年のイタリアW杯で、ユーゴスラヴィアを率いていたオシム監督は、W杯初戦の西ドイツ戦にわざと負けた、と言われている。事実、ユーゴ・チームに多くいた才能豊富なタレント(スタープレーヤー含む)をすべて出場させて、1-4で試合に敗れている。 (次のコロンビア戦とUAE戦は、メンバーを大幅に入れ替え、勝っている。) オシム監督は、複数の民族から成るユーゴ・チームの監督時代、それぞれの民族(のメディアなど)から、その民族を代表するタレントを使えと、圧力を受けていた。 監督はW杯初戦(対ドイツ戦)に、それぞれの民族を代表するタレントのほとんどを試合に出場させ、自国メディア等の圧力にいちど屈するように見せかけて、その試合に負けてみせた、ということになる。 ちなみに、この「攻撃的なタレントを同時に使えとうるさく言うメディアを黙らせるために、試合に負けてみせた」というエピソードは、『オシムの言葉』(木村元彦著、集英社インターナショナル)に詳しい。 いずれにしてもオシム監督は、ワールドカップでは自国メディアとの戦いが重要だということを、身をもって知っているに違いない。 きのうの試合(特に前半)の目的は、試合での「勝利」ではなかった。(さらにいえば、「試合内容」ですらない。) 昨夜の試合の目的は、対メディア戦における布石を打つことだった。そして事実、打たれた布石は、決定的なものになると思う。 オシム監督が敷いたこの布石によって、われわれは、次回W杯に向けて、ドイツW杯時に噴出したような「小野を使え」「松井を代表に呼べ」というような「エクストラキッカー待望論」をとなえることが一切、できなくなったと思う。 「2007年6月5日のコロンビア戦を思い出してくれ。前半の<攻撃的>な布陣は機能しなかっただろう? エクストラキッカーを多くそろえても試合には勝てないんだ」とオシム監督に一蹴されてしまうだろう。 きのうの試合(前半)は、明確な目的と意図をもった、鮮やかな試合だった。 そして、その明確な目的と意図の軸足は、対メディアに置かれていた、ということである。 オシム監督の「先を読む力」は、われわれ観客をも騙しかねない危うさを持つ。 しかし、フィールド内だけでなく、W杯にまつわるさまざまな状況を読める監督こそ、 日本代表の監督にふさわしいと思う。 (W杯に勝つという)目的のためなら、目先の勝利を捨てることができる、 という言葉の真の意味での本質主義者であるオシム監督は、すばらしい。
by nakanobuskip
| 2007-06-06 10:30
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